
Vol.1 同じ売上を、半分の事務量で回す会社がやっていること
この記事は「Fluxx通信」シリーズのVol.1です。忙しいのに売上が変わらない、AIを入れたのに楽にならない、ツールが増えるほど仕事が増える——経営者なら一度は感じたことがある「なんかおかしい」の正体を、全6回で解き明かします。
各回のテーマ:
- Vol.1(この記事): なぜ事務量は減らないのか — 全体の見取り図
- Vol.2: AIを入れたのに、半年経っても忙しい理由
- Vol.3: 利益が出ているはずなのに、数字が合わない
- Vol.4: 「あの人がいないと回らない」が口癖になっている会社で起きていること
- Vol.5: 毎月届くSaaSの請求書に「これ要る?」と思ったら
- Vol.6: 何から手をつければいいかわからない、が正しい
週2回更新でお届けします。まずはこのVol.1で、シリーズ全体の見取り図をつかんでください。
同じ売上を、半分の事務量で回す会社がやっていること
同じ売上を上げている2つの会社があるとします。一方は月末になると事務作業に追われて社員が残業し、もう一方の社員は定時で帰っている。
売上が伸びると、事務作業も増えます。請求書を作って、売上を集計して、経費を処理して。拠点が増えれば、その分だけ確認作業も増える。「そろそろ事務を1人雇おうか」と考えることもあれば、現場から「人手が足りません」と突き上げられることもある。
でも、ちょっと立ち止まって考えてみてください。人を増やせば本当に解決するのでしょうか。先ほどの2つの会社、社員数はほとんど変わりません。
違うのは、使っているツールの組み合わせです。
「ツールは入れた」のに、なぜ楽にならないのか

多くの会社では、すでに何かしらのツールを使っています。弥生会計や勘定奉行で経理をやり、kintoneやスプレッドシートで顧客を管理し、ChatworkやLINEワークスで連絡を取り合う。1つ1つは便利なはずです。
それでも「楽になった実感がない」のは、なぜでしょうか。
原因はシンプルです。ツール同士が繋がっていないからです。
やっていることを思い返してみてください。kintoneからデータをコピーして、エクセルに貼り付ける。エクセルで集計した数字を、会計ソフトに手入力する。Chatworkで届いた情報を、別の管理表に転記する。
これは社内で「伝言ゲーム」をやっているのと同じです。同じ情報を、人の手で何度も入力し直している。伝言ゲームと同じで、回数が増えるほどミスも増えるし、時間もかかる。
本来、1回入力すれば済む情報を、何度も打ち直している。これが事務作業が減らない正体です。
その「打ち直し」、年間いくらかかっていますか

この繰り返しの入力作業に、会社全体で月に何時間を使っているか。営業が報告のために数字をまとめる時間、店長が本部にエクセルを送る時間、経理が各ツールの数字を突き合わせる時間——全部足したら、月20時間では済まないかもしれません。仮に20時間だとしても、時給1,500円×20時間×12ヶ月で年間36万円です。「大した金額じゃない」と思うかもしれません。ですが、これはあくまで入力作業だけの話です。入力ミスの修正、データの突き合わせ、「この数字、最新版どっち?」の確認——しかも確認作業は聞く側だけでなく、聞かれる側の時間も奪います。全部合わせると、体感の倍以上の時間が溶けているはずです。
しかもこれは「売上が変わらなくても、毎年かかり続ける固定費」です。事業が成長すればデータ量は増え、伝言ゲームの回数も増える。「じゃあ人を増やそう」となれば、人件費は年間400万円以上。
問題は、この構造にいつ気づいて手を打つかです。
誰も間違っていないのに、なぜ非効率が生まれるのか

多くの会社では、各部門がそれぞれ「自分たちにとって使いやすいツール」を選んでいます。経理は弥生会計、営業はSalesforce、現場はLINEワークス。それぞれの判断は合理的で、間違っていません。
ですが、部門ごとの最適解を積み重ねても、全社の最適解にはならない。
経理が選んだツールと営業が選んだツールが繋がらない。結局その間を、誰かが手作業で埋めることになる。じゃあ誰が悪いのか? 経理でも営業でもありません。このツールを導入した人でもない。「全社でどう繋げるか」を考える役割が、そもそも誰にも割り当てられていなかった——それが本当の原因です。
現場は自分の業務を回すのに精一杯で、隣の部署がどんなツールを使っているかまで気にする余裕がない。経営者も「ツールのことは現場に任せている」というケースが多い。こうして、誰も悪くないのに全体で見ると非効率が積み重なっていく。これが多くの会社で起きていることです。
ツール選びで見るべき3つの基準
では、どうすればこの伝言ゲームを止められるのか。私たちがツールを選ぶ際に重視している基準は3つです。

1つ目は、他のツールとデータを自動でやり取りできるか。
たとえばfreeeには、外部のツールとデータを自動で受け渡しする仕組み(API)があります。一方で、そういった仕組みを持たないツールも多い。
もしかすると、そもそもクラウドサービスではなく、オンプレミス——つまり社内のパソコンにインストールして使うタイプのソフトを使っている方もいらっしゃるかもしれません。デスクトップ版の会計ソフトや、社内サーバーに置いた管理システムなどです。こうしたソフトは外部との連携手段を持たないことがほとんどで、データを取り出すにはCSVやエクセルで書き出して手で加工するしかない、というケースも珍しくありません。
ツールの中にどれだけ良いデータがあっても、外に渡す手段がなければ、結局人が手で写すしかありません。まず「そのツールのデータを、人の手を介さずに他のツールへ自動で渡せるか?」を確認するのが最初のポイントです。
2つ目は、情報が整理された形で溜まるか。
エクセルファイルやメールの中に情報が散らばっていると、探すだけで時間がかかります。Google Driveに保存したはずのファイルが見つからない。共有フォルダではなく誰かのマイドライブに入っている。「あの案件の見積もり、どこにあったっけ?」が毎日起きる。これは情報の置き場所が整理されていない状態です。Notionのようなデータベース型のツールを使えば、検索も絞り込みも一瞬です。それだけで情報を探す時間がゼロに近づきます。
たとえば顧客情報。担当者の名刺はファイルに、商談の履歴はエクセルに、やり取りのメールは個人の受信箱に——こうなると、担当者が休んだだけで誰も状況がわからなくなります。これが1つのデータベースにまとまっていれば、「この会社、最後にいつ連絡したっけ?」が誰でも3秒で確認できます。
3つ目は、後から機能を広げられるか。
最初から「広げられるツール」を選んでおくことが、長い目で見ると一番安くつきます。最初は請求書だけ自動化したい。でも半年後には勤怠管理も、1年後には顧客管理も——とやりたいことは必ず増えます。そのたびにツールを入れ替えるとなると、話は簡単ではありません。多くのクラウドサービスは年間契約ですし、導入時にコンサルティング会社や開発会社が入っていれば、乗り換えの見積もりだけで数百万円になることも珍しくない。
実際、私たちも最初は議事録を残すためだけにNotionを入れました。それがタスク管理、顧客データベース、ナレッジ、請求管理の元データまで——気づけば1つのツールの上で全部動いています。最初に「広げられるツール」を選んでいなければ、途中で何度も引っ越しが必要になっていたはずです。
「1回の入力で、全部動く」を目指す

この3つの基準に共通しているのは、「1つの入力をきっかけに、複数の処理が自動で走る」環境を作るということです。
たとえば、請求情報を1回入力するだけで、請求書の作成・送付・売上への反映・社内への通知まで全部終わる。
新しいスタッフが入社したときも同じです。名前と連絡先を1回登録すれば、メールアカウントの発行、チャットへの招待、タスク管理ツールへの追加、社内マニュアルの共有——全部自動で走る。
どちらも人がやるのは最初の1回の入力と、最後の確認だけ。
伝言ゲームを10回やっていたのが、1回の入力で10個の処理が同時に走る。これがツール同士が繋がっている状態です。
ポイントは、これが特別な技術ではないということです。魔法のようなシステムを一から開発する必要はありません。すでに世の中にあるツールを「繋がる組み合わせ」で選び直すだけで、この仕組みは作れます。
逆に言えば、どれだけ優れたツールを使っていても、繋がっていなければ「高機能な孤島」が並んでいるだけ。人がその間を走り回って情報を運ぶ構造は何も変わりません。
ツールの性能ではなく、ツール同士の「繋がり方」が、事務量を決めている。ここが、この記事で最もお伝えしたいことです。
AIを使いこなせるかも、ツール次第で決まる

ここまでの話は「ツール同士を繋いで、人の手作業を減らす」という内容でした。ここからはもう一歩先——今話題のAIを業務に活かすための話です。
最近、ChatGPTやClaude Codeといったツールを業務に使いたいという声をよく聞きます。
ですが、AIは魔法ではありません。AIにできるのは「整理されたデータを読んで、人の代わりに判断・処理する」ことです。つまり、データがエクセルの中にバラバラに散らばっている状態では、AIは何もできません。
逆に言えば、ツール環境と整理されたデータさえあれば、AIの活用は驚くほど簡単です。
私たちFluxxでは、歯科クリニックや樹木葬、リラクゼーションなど、リアルビジネスを展開する企業のデジタル化をお手伝いしてきました。その経験から断言できるのは、AIの力を引き出せるかどうかは、「AIが読めるデータ」が社内にあるかどうかで決まるということです。
前のセクションでお話しした「ツール同士を繋いで、データを整理された形で溜める」——これがそのままAI活用の土台になります。ツールを繋ぐことは、目の前の事務作業を減らすだけでなく、AIという次の武器を使える状態を先に作っておくことでもあるのです。
年商1億・事務スタッフ0人の裏側
参考までに、私たちFluxxの話をさせてください。
弊社は年商1億円程度の、まだまだ小さな会社です。ですが、事務専任のスタッフは0人。経理面では、月末の請求書発行から送付まですべて自動化。営業面では、名刺の管理からメールの文面作成までAIが対応。経理も営業事務も、専任を雇わずに回る状態を作っています。
参考までに、現在使っているツールとその連携の仕組みをご紹介します。
- Notion — タスク管理・議事録・顧客データベース・ナレッジ。すべての情報の中心
- Slack — 社内連絡と通知の集約先。期限超過やシステムアラートも自動通知
- freee — 会計・経理の中核。請求書の作成・送付に加え、売上・経費の管理もここに集約。Notionの顧客データと連携して自動発行
- Google Workspace — メール配信・カレンダー・社内の公式文書管理
- AI(Claude Code) — 上記すべてを横断的に連携・自動処理
これらが繋がっていることで、1つの情報を入力すれば、関連する処理がすべて自動で動きます。具体的にどの業務が自動化されているか、全体像をまとめました。


- 経理・会計 — 請求書の発行から送付まで自動化。取引先から届いた請求書や領収書も、受け取った時点で自動保存され、電子帳簿保存法にも対応しています
- 営業 — 名刺を撮影してSlackに投げるだけで、AIが読み取って顧客データベースに自動登録。「○○さんにご挨拶のメールを」と書けば、相手の情報をもとにAIが文面を作成してくれます
- 社内管理 — タスクの期限が過ぎたら自動でSlackに通知が飛び、日報や議事録もAIが自動で生成。「あれどうなった?」の確認がゼロに
- レポート・資料 — 定例ミーティングの資料は、各プロジェクトの進捗・チャットの内容・レポートの数値をAIが自動で集めてスライドにまとめてくれます
- マーケ・集客 — Google広告やMeta広告の成果を自動チェック。ブログ記事の作成から画像生成、入稿まで——ちなみにこの記事自体もこの仕組みで作っています
- ナレッジ・書類 — Slackで流れていく会話の中から重要な情報を自動でNotionに吸い上げ、整理・分類。契約書や社内規程の作成・管理も仕組み化しています
投資対効果で考える

ツール環境を整えるにはコストがかかります。クラウドサービスの月額利用料、導入時の設計・設定の手間。
私たちの場合、ツールの月額費用は合計で月4万円程度、年間でも50万円ほどです。しかも導入時の設計・設定もAIを活用して自社で行っているため、外部への開発費用はほぼかかっていません。一方で削減できた事務工数を人件費に換算すると年間100万円以上。ツール費用の倍以上のリターンが出ている計算です。
さらに見落としがちなのが、属人化のリスクです。特定の人しか知らない業務、その人が辞めたら回らなくなる業務——こうした「見えないリスク」にも本来コストを見積もるべきです。仕組み化されていれば、誰かが抜けても業務は止まりません。
人を1人増やせば年間400万円以上。ツール環境の見直しは、その何分の一かの投資で、同等以上の効果が出ます。しかも一度仕組みを作れば、事業が成長しても追加コストはほとんどかかりません。
まずは1つだけ確認してみてください
いきなり全部を変える必要はありません。
まず、今お使いのツールを1つ選んで、こう考えてみてください。「このツールのデータを、隣のツールに自動で渡せるだろうか?」
もし答えが「無理」なら、そこで伝言ゲームが発生しているはずです。それが、見直しの第一歩になります。
次回のVol.2では、いま経営者のあいだで最も関心が高い「AI活用」について書きます。ChatGPTやClaudeを使い始めたのに、なぜか忙しさが変わらない。その理由と、本当に業務が軽くなるAIの使い方を整理します。
デジタルの力で、
ビジネスの未来を創る。
マーケティングから業務設計、自動化まで——
御社の成長に必要なことを、ひとつのチームで。

